「モクチンを知っていますか?」というと、ちょっと建築に詳しい人なら、木賃アパートを思い浮かべるかもしれない。戦後の住宅供給が十分ではなかった時期に建てられた木造アパートの総称だ。現在もまだ、都内にも数多くの物件が残っているが、老朽化と供給過多が課題になっている。
ここで紹介したいのは、その木賃アパートのリノベーションに取り組む「モクチン企画」である。慶應義塾大学SFCの博士課程の連勇太朗さんを代表とする、れっきとしたNPO法人なのだ。彼は「アーキコモンズ」というIT技術を使って、建築のスタディを行う方法論を開発するなど、社会的な建築のあり方を独自路線で探求していた。
モクチン企画では木賃アパートを現代的な住環境に再生する、おそらくはクリストファー・アレグザンダーのパターン・ランゲージを現代的にアレンジする「レシピ」を開発して、リノベーションすることで、都心部で現代的な住環境を安価に提供することと、賃料を改善するという観点でオーナーのメリットを両立させる試みに取り組んでいた。不動産企業等とのパートナーシップによって、院生ながら多くの物件再生を手がけて、建築業界で注目を集めていた。
彼の手法に以前からとても関心を持っていたのは、多くの建築家が問題の特殊解を導き出すのに対して、彼の手法が一般解を志向したものだったからだ。社会問題の範囲は後半で、ひとつのグッドプラクティスによってすべてが解決するわけではないからだ。他方で、一般解が難しいことはいまさらいうまでもない。そして、彼の手法は今後日本社会が直面する少子高齢化や物件の老朽化という現実に対するひとつの一般解を志向するものに思えたからだ。
そのモクチン企画の新事務所「Kamata KUUCHI」がオープンした。12月14日のお披露目イベントを見に行ってきた。この事務所は、蒲田の戸建てを改装したものである。蒲田というのは、こういった木造住宅が密集した地帯として知られている。物件を丸ごと借り受けて、リフォームした。庭には、アーティストの荒牧悠の作品が並ぶ。連さんはここに住んでいて、事務所としてすでに稼働しているそうだ。また蒲田というのは、古くからの下町として知られているが、物件全面の空き地を使ってそのポテンシャルを引き出す取り組みを構想しているようだ。今後もモクチン企画の動向には要注目だろう。