――――こんにちは、今日はよろしくお願いします。まずは、西田亮介研究室について西田先生から簡単なご紹介をお願いします。
西田亮介先生(以下、西田先生):
よろしくお願いします。西田研は僕が東京工業大学に着任した、いまからおよそ3年前の2015年に立ち上げた、社会学と公共政策学を研究する研究室です。
最初の年に、日本人の博士課程の学生1人と、留学生の修士課程2人、日本人学生1人の計4人がやって来て、それから段々と学生数が増えて現在に至ります。研究室には、メディア研究を中心に社会学を研究する学生や、日本や海外の政策を研究する学生たちがいます。
――――いまメディア研究や政策研究というキーワードが出ましたが、所属する学生さんたちの研究テーマにはどのようなものがありますか?
西田先生:
学生の研究テーマは多岐に渡ります。例えば、日本国内の地域を研究している博士課程の学生もいれば、広告代理店出身で自身の仕事とも関係するテーマを研究する社会人大学院生もいます。また、ある博士課程の学生は、トルコのソーシャルメディアと社会運動の研究をしようとしています。修士課程の学生は、現在中国からの留学生の比率が多いこともあって、中国のメディア事情やジャーナリズムの動向、それから政府の情報発信などについて研究しようとしている学生などもいます。ぼく自身がいろいろな対象を扱っていることもあって、様々なテーマを扱う学生が在籍する研究室だと思っています。
――――学生さんの研究テーマも様々ですが、バックグラウンドも多様ですね。西田研究室の学生さんの特徴みたいなものはありますか?
西田先生:
おそらく僕自身の過去の研究との兼ね合いだと思いますが、やはりメディア研究や情報技術と政治社会との関係に関心を持っている学生が多い印象です。
――――西田研究室の学生さんは、皆さんどういうスケジュールで研究をしていますか?
西田先生:
研究室の指導体制は「個人研究」と「ゼミ」の2つで構成されています。個人研究は修士課程・博士課程の学生がそれぞれの研究を進めていくというのが中心になっていて、ゼミは博士ゼミ、修士ゼミ、学部ゼミと3種類のゼミが置かれています。博士ゼミは英語で行われていて、ゼミ運営やスケジュール設定などもすべて博士課程の大学院生たちに委ねています。内容は、自身の研究進捗を発表したり、研究過程で読んでいる最新の文献などを他の学生と共有するといったものになります。
修士ゼミは、各自の研究進捗の報告はもちろん、研究の進め方や方法論等を含めた「研究をするとは何か」というところから実際に自分の研究を進められるところまでを各自がデザインできるようにするのが目的です。週1回のペースで開かれています。
学部ゼミは理工系の大学生たちが教養科目の一環として履修する学部科目です。僕が東工大という理工系の大学に文系の研究室を持っている理由でもあります。学部ゼミでは社会科学系の文献輪読を中心とした学習を行っています。
西田研究室の研究指導方針として、基本的に上の課程の学生が下の課程のゼミにも参加するというルールがあります。博士課程の学生は修士ゼミと学部ゼミにも参加し、修士課程の学生は学部ゼミにも参加するということです。もちろん、修士課程の学生が博士ゼミに出ることや、学部生が修士課程以上のゼミに出るのも任意で可能になっています。
これらの基本的なプログラムのほかに、年に1~2回の頻度で研究合宿も行っています。普段はなかなか読むことができない外国語文献や古典文献などを中心に、朝から晩まで集中的に勉強しつつ、同時に研究室内のコミュニケーションをより密なものにする機会として合宿は位置づけています。その他に企業見学などにいったり、ゲストレクチャーも実施しています。
――――ありがとうございます。次に、西田先生が自らの研究室に求めている学生像などありましたら教えてください。
西田先生:
そうですね……モチベーションが高くて、自分がやるべきことを自分で発見でき、周りの学生と助け合いながら各自のキャリアを切り開いていく、そんな学生が来てくれることを期待しています。
――――いま「キャリア」という言葉が出ました。西田先生が東工大に着任してから3年が経過されましたが、修士課程はそろそろ第一期生が修了して世の中に出ると思います。第一期生の学生さんたちの進路を差し支えなければ教えていただけますでしょうか?
西田先生:
修士の第一期生は2人いるのですが、2人とも日本の民間企業に就職する予定です。2人とも留学生なので、慣れない日本での就職活動を経て働き先が決まりよかったなと心から安心しています。その一方で、少し悪いことをしたと思っているのは、僕の研究室が新しい研究室で、いわゆる日本式の就職活動をする上で重要なOB・OG訪問の機会が乏しかったことです。まだ直接の先輩がいませんので。それから、現在の日本式の就職活動のやり方について、僕から2人にもう少し周知してあげられたのではとも後悔しています。ただ一期生を世の中に出せるということで、こういう状況はこれから段々と改善されていくんじゃないかとも考えています。
――――なるほど、今後の卒業生たちがどんな進路を選ぶのかも期待したいですね。さて、次に西田研究室を選んで研究することのメリット・デメリットなどがあれば教えて下さい。
西田先生:
大別すると利点は2つあるんじゃないかと思います。1つは新しい研究室なのと、僕自身がまだ駆け出しの研究者であることから、僕の「現役感」を持った指導を学生が受けられるのではないかということですね。それから僕自身が研究者の労働市場についてはそれなりにフレッシュな感覚を持っているので、特に博士課程の学生たちにとっては現実味のある指導というのが可能ではないかとも考えています。僕の研究室は、ある意味では「まだ何者でもない」新しい研究室であり、決して名門研究室というわけではありませんから、これから入ってくる学生たちと共に作り上げ、皆で成長して行く、そんな経験をすることができる柔軟な場所なんじゃないかと思います。
デメリットは、いま挙げた利点と完全に裏返しになります。何よりも実績がない、特に就職活動をする上で優遇されることは乏しいんじゃないかと思います。それから研究者を目指す場所という観点で見ると、やはり歴史のある名門研究室からはすでに数多くのOB・OGが研究者として日本や世界各国で働いていて、その人たちが様々な形で便宜を図ってくれるというのがあるでしょう。うちの研究室は、まだそういう研究室にはなっていないこともデメリットとして挙げられると思います。
――――今の発言をポジティブに捉えると、研究も進路も西田先生と一緒に新しく切り開きたいという学生さんたちにとってはいい環境ということですね(笑)。
西田先生
そうかもしれませんね(笑)。僕自身もほぼ毎日、研究室に顔を出して学生たちとよもやま話をしますし、場合によっては共同研究で僕自身も学生たちと一緒に徹夜をしながら何かを作ったりすることもあります。まだそういう無茶なこともできる年齢ですので、学生たちと一緒に研究をする、それから研究のみならず何らかのプロジェクトを推進する、そうした提案はいつでも大歓迎という状態であることは、研究室の強みの1つだと言えると思います。
――――多くの学生から進学したいという連絡を日々受けていると思うのですが、志願者のために進学する上で意識すべきことや大切なことなどありましたら教えて下さい。
西田先生
何よりもモチベーションを持って欲しいですね。知識や日本語の優劣よりも、高いモチベーションを持って研究やプロジェクトに取り組むことができるかどうかを評価したいと思っています。ですので、言い方を変えると、現時点での知識や言語能力よりもモチベーションの高さとその後の実際の伸び幅というものを評価するつもりです。
――――志願者が手続き面で気をつけることはありますか?
西田先生
東京工業大学は、修士課程の入学私見は年に1回、博士課程の進学は夏と冬の計2回用意されています。さらに研究生になりたい場合も年に2回出願を受け付けています。ただし、最近になって細かな出願時期が変更になったので注意をする必要があります。詳しくは大学のウェブサイトを参考にして下さい。
僕に事前に連絡を取りたい人は、履歴書、TOEICなど英語力を測るテストの点数、研究計画書、外国からの出願者はそこに日本語力を測るテストの点数という4点セットを送ってもらうことにしています。実際には多くの人が研究計画書を添付せずに書類を送ってくるので、そこも注意して欲しいと思います。連絡を取った時点から、選抜が始まっていると考えてください。
また西田研究室では、海外からの志願者のために英語のTwitterアカウントも開設していますので、それも進学する際に参考にして欲しいなと思います。
――――研究室の普段の雰囲気が気になる志願者の方もいらっしゃると思います。どのような感じか教えていただけますか?
西田先生:
締め切りなどで追い込まれると、博士課程・修士課程の学生を中心に研究室に宿泊したりする学生もいますが、普段は和気あいあいとした雰囲気です。特に学期期間中は多くの学生が研究室を中心とした生活を送っているようです。ただし、彼らが研究室でいつも議論をしているのか勉強をしているのか、はたまたYouTubeを見て遊んでいるのかは分かりません(笑)。研究室では、ときに理工系の学部生と文系の大学院生が一緒に何かプロジェクトを進めたり議論をしたりする光景も見られて、そういうのはとても素敵だなと思いながら眺めています。
――――これまでの3年間で、西田先生が特に印象に残っている出来事やエピソードなどはありますか?
西田先生:
やはり子育てと同じで、学生たちはなかなか教員の思う通りには育ってくれないものです。着任した当初は、僕も四苦八苦しながら手探りで指導を行ってきました。そのような中で、入学した当初は日常での日本語会話もおぼつかなかった留学生2人があっという間に日本語を習得して就活で内定を得る。修士論文もまだ提出前で完成には至っていませんが、ある程度形になってきた。修士2年の人たちのこの2年間というのは、僕にとっても、とっても印象的な2年でした。入学という入り口から卒業・就職までの出口までをきちんとデザインできたというのは、僕にとっても大変誇りに思うことができる経験でした。
――――西田研究室を志願する学生にお薦めの書籍はありますか?
西田先生
日本式の大学院受験では、面接するまでに指導(予定の)教員が書いた書籍を複数冊読んで来るというのが常識になっています。その意味で言うと、2016年に社会情報学会優秀文献賞をとった『メディアと自民党』(KADOKAWA、2015年)はひとまず僕の代表的な仕事として読んできて欲しいというのはあります。それから僕が政治や社会をどう見ているのかという点でいえば『なぜ政治はわかりにくいのか』(春秋社、2018年)と『不寛容の本質』(経済界、2017年)の2冊を上げることができると思います。やや毛色の違う業績で言えば『無業社会』(朝日新聞出版、2014年 ※工藤啓氏との共著)という認定NPO法人育て上げネットの代表である工藤啓さんと書いた著作も、僕の社会観や政治観と密接に結びついている書籍なのでお薦めです。『無業社会』は、おそらく日本語としてもいちばん読み易いんじゃないかと思います。
――――先ほどゼミで文献の輪読をしているというお話がありましたが、これまで具体的にどういった本を読んできましたか?
西田先生
これまではグローバル社会を考えるという観点から、2010年代前半までの、いわば理性と国際協調を基軸とする社会の理論的支柱となった社会民主主義の論者たちの著作を読んできました。具体的には、アンソニー・ギデンズやロバート・ライシュのような理論家や実践家たちの著作です。それらの著作を軸にしながら現代社会の基調である理性的な社会や世界とはどのようなもので、どのように形成されてきたのか、課題はどこにあるのかといった問題を検討しました。その他には、より現代的なテーマあるいは直接的な研究の方法論に関連する著作ですね。方法論としては『政治学の方法』(加藤淳子・境家史郎・山本健太郎編、有斐閣、2014年)や『イシューよりはじめよ』(安宅和人著、英治出版、2010年)などが該当すると思います。ただし、文献として何を読むかは、セメスターによって変わっていきます。
――――ありがとうございます。西田研の学生さんたちは修士課程に入学した後、どのようなペースで2年間の研究生活を送っていくかも教えて下さい。
西田先生
入学するとすぐに授業が始まって、多くの学生たちにとっては久々の授業経験になるので日々の課題やレポートに追われます。また、西田研究室の所属先である社会・人間科学コースには必修科目も設定されているので、特に入学後1年目はそうした授業に追われる生活を送ることになるでしょう。同時に、修士課程を経て企業などに就職したいという学生たちは、多くの場合1年目の当初から就職のための準備をしなければなりません。日本式の就職活動ということで言えば、SPIやTOEIC受験したりインターンに行ってみたり、そんな準備も最初の年から始まります。
ですので、最初の年に研究の大まかなかつ現実的なデザインを行って、その上でリサーチを進めていく。そして、修士課程2年の当初くらいから修士論文の執筆を開始すると良いペースで無理することなく修士論文を仕上げることできるのではないでしょうか。