2019年7月10日水曜日

法務教官の専門性と重要性ーー認定NPO法人育て上げネット少年院スタディツアーに参加して


 2019年6月11日、12日に若者支援を広く手がける認定NPO法人育て上げネットの少年院スタディツアーに参加した。
育て上げネットによる支援状況等については、下記など参照のこと。
「平成29年度第二回青少年問題調査研究会少年院出院後の再犯防止の視点と課題」
 過去のエントリにも書いてきたように、これまでも幾つか少年院や鑑別所のスタディツアーに参加させていただいてきたが、今回の訪問先は四国地方に立地する松山少年鑑別所/松山法務少年支援センター、松山学園、丸亀少女の家の3ヶ所であった。


 少年院法や少年鑑別所法の2014年の抜本改正以来、処遇における社会連携や、社会への情報公開が本来業務となった。以来、さまざまなスタディツアーや情報発信が行われ始めている。とはいえ、それらは端緒についたばかりであって、まだまだ先駆的な取り組みが試行錯誤されている状態だ。
 育て上げネットは以前からこの問題に関心をもって、スタディツアーや他のNPOや企業と連携した支援の開発に取り組んでいる。筆者も育て上げネット代表の工藤啓さんと『無業社会』を著したこともあって、本業の研究にできないかと思い、スタディツアーに参加させていただきながら、勉強させていただいてきた。ただし、今の所見学させていただいた内容等をこうしてブログエントリを書くことこそできるが、研究にまでは至っていないという状況だ。
 理由はいくつかある。まず個人情報の壁である。現状では少年院等の見学では収容している少年たちとの接触はできず、セキュリティの観点から施設を定められたルートで見学し、その後職員の皆さんと意見交換するというところにとどまるからだ。むろん、それら自体が我々に時間を割いていただいているのだから大変貴重な機会である。最初こそなかなか見ず知らずの世界だけに驚きも多かった。だが、複数回行くとそれらがある種の見学の定型となっていることにも気づく。言い換えると研究に必要な深く対象を知る機会としては十全ではないと考えるようになったからだ。研究はまだ誰も知らず、かつ重要な主題を深く掘り下げて成立するから、そのような制約のもと対象として触法少年を巡る問題とどのように向き合っていくのかという整理がつかないまま、さしあたり育て上げネットから案内をいただくたびにツアーに参加していた。
 今回の四国でのスタディツアーで、ひとつ気がついたのが、表題の矯正教育と法務教官の専門性と重要性という点だ。触法少年と最前線で接触しているのが法務教官という国家公務員職である。彼らは最前線で少年たちと向き合い、多くの暗黙知/形式知を有しているが、先行研究を簡単にフォローする限りにおいてそれらの質的構造や専門性の所在は、明らかに当該課題において重要と思われるが、十分に検討されているとはいえないということに気がついた。またその専門性の発展や彼らの葛藤、問題意識、キャリア(意識)等についても同様だ。もうひとつ気になったのは、ある関係者が口にしておられたのだが、民法の成年年齢引き下げの問題をどうするかということとも関係するのかもしれないが近年少年を巡る司法は厳罰傾向にあるのだという。他方で、現場の認識としては、厳罰化よりも適切な処遇と矯正教育が重要に思えるときがあるという葛藤を感じることもあるのだそうだ。
 今回ははじめて女子少年院も見学させていただいた。女子少年院収容者の場合、虞犯の割合が多いなど、男子の場合とはまた異なった傾向があることなどを学ばせていただいた。人を支え、社会復帰を支援する場所にはやはり必ず人がいる。その人たちがどのような専門性を持ち、どのような問題意識を持って、キャリアを積んでいるのだろうか。そのことは十分理解、検討されていないように思える。少年たちとの接触は難しいかもしれないが、もっとも近いところで少年たちを支えている法務教官の方々とその状況をもっと知ることができるのではないか、と思えた機会であった。今月にも再び別の少年院を見学させていただくので、追ってまた考えたことなどを共有させていただきたい。
  • 触法少年の社会復帰支援と「被害者軽視」 ーー新潟少年学院スタディツアーに参加して(西田亮介)- Y!ニュース
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