18歳への投票年齢引き下げ(いわゆる「18歳選挙権」)の成立が眼前に迫っている。
成人年齢引き下げ焦点 18歳選挙権17日にも成立:日本経済新聞
ここでも幾度かにわたって、この問題を取り上げてきた。
ネット選挙の「理念なき解禁」と同じ轍を踏まない18歳選挙権の導入と実践を(西田亮介)- Y!ニュース
「若者が投票に行かないから、若者向け政策が実現できない」という政治家を信用するな。(西田亮介)- Y!ニュース
社会に政治を理解し、判断するための総合的な「道具立て」を提供せよ――文部省『民主主義』を読んで(西田亮介)- Y!ニュース
詳しくは上記のエントリを読んで欲しいが、ごく簡潔に要約すると、直近では、この「改革」の影響力は、18歳、19歳人口約240万票を、全国の選挙区で希釈した(除した)票数に投票率を掛けあわせた票数に限定される。この数は、そもそもの母数が、たとえば団塊世代でいえば、1歳相当分の票数にとどまる。政治に直接影響を与えるのは投票「率」ではなく、投票「数」であり、従来の20歳代の若年世代の政治への関心を向上させることもうまくいっていいないうえに、なぜ今回の制度変更で、突如として、この世代の政治に対する関心を向上させられると考えられるのか根拠がまったく見えない。そのうえで若年世代の投票率は、団塊世代の2分の1程度で推移している。その背景には、日本社会には、政治を理解し、判断を下す「道具立て」≒「フレームワーク」の形成機会が乏しいという課題が存在すること、ただし、それらを時間の獲得競争が激しく、また政治的中立が要請される初等中等教育のプログラムのなかに、模擬投票といったかたちで付け加えるだけでは全く不十分で、むしろメディアのコンテンツの形式と態度変容のほうが日本の場合ポテンシャルがあるのではないかといったことを指摘してきた。
18歳選挙権をめぐる動向は、事前に大きな期待を集めながら、今のところ選挙結果の大勢に顕著なインパクトを観察できないネット選挙運動の解禁過程とその後の顛末と実に良く似た様相を呈している。これまでに『第三文明』7月号の拙稿「本質的な問題の解決が若者の政治参加を促す」などでも論じたが、ネット選挙や18歳選挙権といった派手な「改革」に注目が集まる一方で、古くからその課題が指摘されてきた、そしてより本質的な課題であるはずの改革供託金引き下げ、被選挙権の引き下げの議論はすっかり鳴りを潜めてしまっている。
供託金は、立候補にあたって事前に準備しなければならず、一定の得票に至らなかった場合没収されてしまい、たとえば国政選挙の選挙区や知事選では300万円、市区議会議員選挙でも30万円が求められる。一般に、若年世代のほうが資産形成が遅れており、「失われた20年」とデフレ下ではその傾向はいっそう強まっていると考えられる。またIPUが指摘するように、日本の下院(衆院相当)の国会議員に占める女性議員の割合は9.5%で、世界155位に該当している。
若年世代や女性の政治参加促進を、本当に積極的に進めるなら、何歳までを若年世代に含めるか、また公平性に関する議論が必要だが、若年世代と女性については、供託金を大きく減免するといった方法も考えられる。またアイドルを使った投票促進なども行われるが、同世代の立候補者の登場は政治に対する親和性や共感を改善すると考えられる。そうであるなら、現在の投票年齢は20歳に対して、衆院被選挙権25歳以上、参院30歳以上、知事選30歳以上という非対称性も改善するということも十分考えられるはずだ。
現職議員にとって影響が乏しく、それでいて「改革」のように見える規制改革は着々と進む。それはそれで否定されるべきものではないが、より本質的な供託金引き下げ、被選挙権の引き下げ等の議論も再度棚卸しすべき時期なのではないか。