2015年3月27日金曜日

必要なのは福祉「と」投資――『日経ビジネス』「2000万人の貧困」特集から

遅ればせながら、『日経ビジネス』3月23日号が、貧困特集を組んでいたので、手にとってみた。
まず紹介するのが、日本の相対的貧困率16.6%という数字が、年約122万未満の可処分所得で生活する人が約2000万人、およそ6人に1人存在するという事実である。
その後、ネットカフェ難民や、介護がきっかけで貧困に陥ったビジネスパーソン、教育費の高騰、釜ヶ崎の現状等の事例を紹介しつつ、貧困が複合的な要因のもとで誰にも陥る可能性がある問題であることなどをコンパクトに紹介する、なかなか読み応えのある特集であった。
そのなかで一点、違和が残るのが、対策編ともいうべき記述だった。突如として強調されるのが、サブタイトルにもある「福祉」より「投資」という考え方である。
就学援助:福岡市、4月から縮小 基準変更、240人対象外に- 毎日新聞
まさに一昨日のニュースでも報じられているように、緩やかなインフレ基調にもかかわらず(そしてそれはアベノミクスの効果として強調される一方で!)、生活保護の支給基準年収は引き下げられているなかでは、「福祉」より「投資」という論調は、意図せず誤ったメッセージとなりかねない。
明確な論理が示されればまだしも、同誌の特集では、この点はあまり説明されないままであった。たとえば、「福祉」より「投資」の「根拠」として提示されるのは、以下のような記述である。
  1. 就労支援などの社会的投資は、十分にペイする(≒生活保護を受け続けるより、社会保障費等を削減できる)
  2. 従来、効果的な支援を怠ってきたので、貧困が拡大した。
  3. 社会貢献事業に積極的な外資系企業社長の「社会貢献は慈善ではなく投資である」というコメント。
だが、1と2で述べられているのは、就労支援型アプローチの有効性と、従来の政策の機能不全である。これらを前提にしつつ、普通に考えれば、(福祉)政策のイノベーションが必要、ということではないか。少なくとも福祉より投資というロジックにはならないはずだ。
また3の言及は、当然民間事業者が実施する社会貢献の取り組みの位置付けについてであり、民間における社会貢献活動の理念は当然多様であるべきだが、同時にそのことは(福祉)政策が必要でないことの根拠にはなりえない。
生活保護をはじめとする福祉政策は、生存権について規定した憲法第25条を根拠にする。
第二十五条  すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
○2  国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。
民間事業者の取り組みがどうあれ、国は生存権を保障するべく尽力する責任を有する。筆者は、過剰に最小限の給付に固執するあまり、脱貧困の契機になりえず、潜在的な対象者が漏れ落ちる現在の生活保護政策のあり方には疑問を感じている。また不正受給の件数が年間約3万5千件と増加の傾向にあるのも、これはむしろ生活保護制度が脱貧困に直接貢献していないがゆえではないか、とも。まず考慮すべきは政策の改善であり、その次に(政策としての)「福祉」と(民間)の「投資」の協働ではないか。
実際、この特集が指摘しているのは、「福祉政策が機能不全を引き起こしていること」「社会的投資型のアプローチが、ある局面においてはポジティブな影響をもたらしていること」であったはずだ。そうであるなら、対策として提示されるべきだったのは、「福祉」より「投資」ではなく、「福祉(政策のイノベーション)」と「投資」がともに必要であるというメッセージだったのではないか。
普段、貧困の問題は自分とはあまり関係がないと思っているであろう(『日経ビジネス』を読むようなエリート)ビジネス・パーソンにもその実態を伝えうる、良い特集だっただけに、むしろミスリーディングしかねない記述は残念で、思わず筆を取った。