旅というのは大人の楽しみかもしれないと思うようになった。むろん、ただ知らない土地へ行き、新奇なものを眺めることはだれでもできる。ここ数年、仕事でいろいろな土地に赴くようになった。結果として知らない土地を訪れ、知らない人々に話を聞き、初めての人たちと食事して酒を囲む機会が格段に増えた。知らない人たちから話を聞くときには、自分にも話すべき話題が少なからずあったほうがよいし、少なくともそう思われたほうがよいだろう。会話というのは相互に話すことで進んでいくのだから、「話す価値がない」と思われてしまってはないけない。そう考えると、年を重ねて大人になると、何がしかの蓄積は少しずつでも増えていく。また研究というようなものを生業にしていると、他所の土地の取り組みや国の動向についての知見も増えていく。こちらにも話したいということがあると、畢竟話は弾み、酒は進む。そう考えると、もともと知らない土地を訪れることに対してあまり積極的ではなかったものの、徐々にそうした行為を楽しめるようになってきたような気もする。せっかく生業なのだから、もっと楽しくなってほしいとも思う。