昨今、とくにネット上のビッグデータや新しい可視化手法(インフォグラフィクス)を、報道に活かしていく「データ・ジャーナリズム」が脚光を浴びている。日本でも朝日新聞の「ビリオメディア」企画など、いくつかの実践が行われてきた。だが、日本でなかなか実践として普及していなかった。筆者の認識では、技術というよりは、日本のメディア業界の独特のガバナンスが影響しているという見立てであった(実際、実践よりは、「データ・ジャーナリズム」の名を冠したシンポジウム等をよく目にする)。
そのようななかで、あまり話題になっていないが、毎日新聞社にもデジタル報道センターという部署ができた。毎日新聞社は、たとえば過去のネット選挙報道でも、政治部を中心に、社会部、デジタルメディア局の合同の体制を取るなど他社に先駆けた体制を構築していた。恒常的なガバナンスとしても新しい実践を試行しようとしている。
4月1日付けで、これまで大阪本社所属だった石戸諭記者が、同センターの所属となったことにも注目したい。石戸記者は社会部出身だが、ITやネットの動向の感度も高く、自身でも積極的に使いこなしている(たとえば石戸記者のTwitterのタイムラインなどを見てみてほしい)。毎日新聞社と筆者による一連のネット選挙報道の取り組みも、筆者が学会報告をしていた会場に石戸記者が足を運んでくれたことがきっかけとなって始まった(下記は、これまでの毎日新聞社と筆者の共同研究の概要)。
都知事選とソーシャルメディア:毎日新聞・立命館大共同研究 政治対話、ネットでも- 毎日新聞
http://senkyo.mainichi.jp/news/20140215ddm010010003000c.html
毎日リリース:ネット選挙「本紙・立命館大共同研究」都知事選で展開(2014/1/24)-毎日新聞
http://senkyo.mainichi.jp/news/20140124org00m040005000c.html
2013参院選:参院選期間中のツイッター分析- 毎日jp(毎日新聞)
http://senkyo.mainichi.jp/2013san/analyze/20130731.html
毎日リリース:参院選 立命館大と共同研究によるツイッター分析を紙面とWEBで展開(2013/06/28)
http://mainichi.jp/info/news/20130628org00m040007000c.html
ITは、使い方次第で、資金力の差や既存のパワーバランスを逆転できるポテンシャルを秘めている。それを引き出すのは最終的にはマンパワーと組織の意思決定であるから、毎日新聞社のデジタル報道センターはその両方を獲得しようとしている(...半ば期待を込めつつ)。
先日、2014年度も毎日新聞社と筆者の共同研究(受託研究)の契約を双方合意のもと更新した。先行して、第1弾の企画が紙面とWebの双方で出て、ネットではそれなりに話題になっている。
ツイッター分析:「消費税」ツイート急増、「小保方」4倍- 毎日新聞
http://mainichi.jp/select/news/20140413k0000e040133000c.html
ネットの世界:毎日新聞・立命館大、共同研究 増税つぶやき、生活密着 「給料上がらないのに」「コンビニで実感」- 毎日新聞
http://mainichi.jp/shimen/news/20140413ddm003020076000c.html
来月以後、この取り組みは本格化していくことになるが、デジタル報道センターが中心となって、日本における新しいITとジャーナリズムのあり方を探求し、また実践していくことができるのではないかと、今から楽しみにしている。
このように、ともすれば、古いイメージが抜けない日本の新聞メディアも、その強みを活かした新しいジャーナリズムに取り組み始めた。ようやくといった感も否めないが、たとえば2013年に解禁されたネット選挙の活発化と手法の高度化に対応して、新聞がネット上でも権力の監視や問題提起といったジャーナリズムの本来的な機能を果たしていくうえでも、こうした取り組みと、業界における切磋琢磨は、有権者にとって歓迎できるものなのではないか。
アメリカでは、新聞社は大規模なリストラや紙媒体との決別が始まっている。もちろん、既存の発行部数やメディア環境が異なるので、一概に比較することはできないが、ジャーナリズムと新聞のイノベーションのきっかけになることを期待したい。