2013年3月13日水曜日

『若年無業者白書――その実態と社会経済構造分析』とクラウドファンディング、そして利益相反ルールについて

この度、友人で、若年無業者の支援を行なっているNPO法人「育て上げ」ネットの理事長の工藤啓さんの主催で、Ready for?を利用したクラウドファンディングに取り組んでいます。

テーマは『若年無業者白書――その実態と社会経済構造分析』の作成です。

近年NPOが蓄積したデータを用いた白書の作成が盛んになっています。直接の支援のみならず、データに基づいた政策提言の素地にするためです。「育て上げ」ネットは若年無業者の支援に10年近く取り組んできた草分け的存在です。工藤さんも現在の日本における社会起業家の草分け的存在です。社会科学の研究者は社会事象の分析を行うので、定義上フォロワーですが、工藤さんはまさしく社会課題の解決の最前線に立ってらっしゃる方です。

工藤さんとは数年前、社会起業家とソーシャルビジネスの調査でお世話になって以来、良くしていただいて来ました。いわゆる研究だけではなく価値創出でご一緒できたら、と思っていたので、今回の機会をぼく自身もとても楽しみにしています。

また海外では研究者がクラウドファンディングで資金調達することが決して珍しいことではなくなってきていますが、日本では数年前にiPS細胞の山中教授がジャストギビングに挑戦していたケースなどを除くと珍しいのではないでしょうか。いわゆる文系の研究者では寡聞にしてそのようなケースを聞いたことはないように思います。

今回の企画は「育て上げ」ネットが蓄積してきた、支援に関するデータを用いて、白書を作ろうというのが主旨になります。これは突如思いついたわけではなく、2年ほど前からいくつか民間の基金に挑戦して来ましたが、ぼくの腕がいたらず採択には至りませんでした。民間の基金は応募の機会が年に数会と限られているので、採択を待っているといつまでも歳月が過ぎてしまいます。それゆえ今回資金調達にあたって、クラウドファンディングに挑戦させていただくことにしたという次第です。

実は驚くべきことに、工藤さんの信頼と、多くの人が共感してくださったおかげで、公開約8時間でミニマムの金額を達成することができました(これが達成されないと、プラットフォームの使用上支払われないのです・・・汗)。かなりの早さだったようです。ありがとうございました。

今回の企画の、いわゆる「想い」については、すでに主催の工藤さんがブログに書いてくださっています。

「『若年無業者白書-その実態と社会経済構造分析- 』制作に向けて」

工藤さんのミッションに共感したので、今回ご一緒させていただくわけですが、ところで、今回のクラウドファンディングにあたって、いわゆる研究者の利益相反をどうしたのか、という点について、以下に記述してみます。

大学に勤めている方などは、現在研究者の利益相反に関するルールについてご存知のことと思います。分かりやすくいえば、研究者が特定の企業などから直接的な利益供与を受けることが社会の利益や、研究者の信頼にとって望ましくないという立場のもと、近年さまざまなルールが定められています。クラウドファンディングと研究というと、そこから発生する資金と使途が不明瞭になるのではないかということを危惧される方もいらっしゃるのではないでしょうか。

いわゆる研究費としては相対的に多額とはいえませんが、せっかくの挑戦ですからクリーンに実施できるように、今回クラウドファンディングを利用するにあたって、事前に本学のリサーチオフィスと相談して以下の手順を踏むことにしました。

1.  主催(=資金調達)の主体はあくまで、工藤さん

2. 工藤さん並びに「育て上げ」ネットと西田のあいだで共同研究の手続きを行う

このような順序を踏むことで、大学が管理する大学の規定に基づく研究費としての使途しか認められなくなります。たとえばぼく自身の謝金や使途自由の資金にはなりえなくなります(たとえばデータ分析の依頼等で他者に対する謝金になる可能性はありえます)。もっとわかりやすくいえば、ぼくが資料としての文献を購入したりすることはできますが、飲食費等に充てることはできなくなります。研究者は研究が仕事であり、僕自身は幸い現在は大学から給料を得ているので、いわゆるコンサルタントでいうところの人日で積算したりする稼働費のようなものは必要ないのです。

また、今回いろいろ調べたため、現在の大学のルールに則った方法で、クラウドファンディングを利用できる可能性があることもわかりました。若手の、人社系の研究者にとっても今後の応用可能性が期待できる方法だと思いました。この辺りもいずれ、もう少し考えてみたいところです。

これから、工藤さん、「育て上げ」ネットと打ち合わせしつつ、ご期待に応えるアウトプットを創り出せるようがんばろうと思います。成果公開の暁には、改めて告知させていただきます。クラウドファンディング自体は、まだしばらく続きますので、引き続きよろしくお願い致します。

『若年無業者白書――その実態と社会経済構造分析』