2013年1月16日水曜日
どのような「ネット選挙運動」が「解禁」されるのか
1990年代以来これまでに何度も公職選挙法の改正が試みながらも見送られてきたインターネットの選挙運動への導入だが、今夏の参議院選挙ではなんらかのかたちで「ネット選挙(運動)」が解禁となりそうだ。自民党の議席数を鑑みても、一歩前進しそうだ。
「ネット選挙、今夏の参院から解禁 5党共同提案で公選法改正へ」『msn 産経ニュース』
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/130115/stt13011523480007-n1.htm
いよいよ争点はどのような/どこまで、選挙運動へのインターネット・メディアの利活用を認めるかということになってきたといえる。「ネット選挙解禁」という見出しは、ともすれば「選挙運動に自由なインターネットメディアの利活用を認めること」を想起させがちだが、そうではない。ましてや投票へのインターネットメディアの利用を認める「ネット投票」からはほど遠い(みんなの党の公職選挙法の改正案は後者の可能性を1年以内に検討することという文言を盛り込んでいる)。
現在のところ、事前に承諾を得た電子メールを除く、インターネットメディア等を利用した文書図画の頒布を認める、という点が大きな変化となりそうだ。具体的には候補者、有権者ともにホームページの更新や、PDF等の文書の頒布が自由に認められるようになる。
しかし、これらの改正はあくまで「守りの改正」というと語弊があるだろうか。筆者個人も含め、多くのネットユーザーが暗黙に期待するであろう「候補者と有権者がインターネットメディアを通じて、コミュニケーションを行うことで政治の透明性を改善し、政治と有権者の距離が近づき、ひいては候補者と有権者の双方が政策について積極的に考えるような環境の醸成」という価値観の実現には随分開きがある。
また「ネットはコストが掛からない」という誤った/意図的な、性善説的な認識に立脚しているため、有料広告については制約をかけているものの、PR会社や広告代理店のネットでのPRの請負についてはとくに制約がかからないままになりそうである。加えて既存のビラの枚数やポスターの大きさ、戸別訪問、あるいは新聞、テレビ、ラジオといったインターネットよりも先に普及したメディアの利活用をどうするのかといった論点も残る。
インターネットメディアは情報の拡散と影響力によって、組織/個人、大企業/ベンチャー企業といった従来ではなかなか超えられなかった非対称性を、ときに乗り越えられる技術特性をもつ。逆にいえば、このような技術特性を政治で利用していくのであれば、付随して、先に述べたような従来メディアをどうするのか、他のメディアに対する規制は適切かといった論点もあわせて検討しないと整合性がとれない。言い方を変えれば、筆者自身はかなり広範なインターネットの選挙運動への利活用を認めるべきと考えるが、それでも闇雲にインターネットだけの自由な選挙運動への利活用を認めることがガバナンスの改善につながるのかというと疑問や懸念も残る。
2012年の衆議院選挙の動向を見ても、政党の影響力は限定的になろうとしているようにも見える。小選挙区制の導入が企図していたはずの、政治家、ないし候補者が政党を選択するような「選挙の個人化」は本当に、日本の政治環境にそぐうものなのか、よりポジティブに捉えるならば、「ガバナンスを変革する選挙制度へのインターネットメディアの利活用はどのようなものか」という議論が求められているのではないか。2012年夏の参議院選での部分的な「ネット選挙(運動)解禁」は、このような問題を考える好機だろう。