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2016年11月2日水曜日

なぜ日本の大学政策は国内外からの指摘にもかかわらず運営費交付金削減と競争的資金政策に拘り続けるのか

昨今、にわかに大学、とくに国立大学法人の経営難と環境悪化が報じられている。
国立大の基礎研究費削減、全国の理学部長らが反対声明:朝日新聞デジタル
国立33大学で定年退職者の補充を凍結 新潟大は人事凍結でゼミ解散 | THE PAGE
大学ランキングに一喜一憂するべきではないという声明も出されるが、自分の研究室に来た留学生たちに聞いてみても、一様に大学ランキングは見ているという。ひとつの大学選択の基準になっていることは否定出来ないだろう。その大学ランキングのひとつ、タイムズ・ハイヤー・エデュケーション(THE)で、日本の大学ランキングは近年低迷傾向にある。THE2016-2017年版では東大は世界ランキング39位、東アジア7位となった。世界ランキング100位以内にランクされているのは、東大と京大のみである。なお理工系が強い項目を重視するため、私大はこのランキング上位(アジア上位50位内)には出てこない。
もうひとつの著名なランキングQSでは、東大が世界34位、京大37位、東工大56位、阪大63位、東北大75位など、100位以内にもう少し多くの大学がランクインしている。
中国は別枠としても、シンガポールや香港のような小さな国、地域は大学の数も少なく集中投資可能だが、大学が質量ともに多様で、大学制度が一定の成熟を見せた日本ではそうもいかないため、独自のアプローチは必要だ。
それにしても、なぜ日本の大学政策は国内外からの指摘にもかかわらず運営費交付金削除を継続し、競争的資金政策に拘り続けるのだろうか。年間1%削減を継続し、すでに国立大学の法人化以来10年あまりその削減を継続している。投資の増額はともかくとして、1%のカットを10年続ければ10%カットである。そして、国立大学法人は全国で86存在するが、この10年で10%、総額約1200億円がカットされている。
旺文社の下記の資料は運営費交付金の動向について端的にまとまっていた。
たまたま共産党が、運営費交付金削減が将来の大学学費値上げにつながるため、反対という姿勢を取っている「しんぶん赤旗」の記事を見つけた。素朴だがわからない態度表明ではある。その他の政党については、この問題に関するあまり明確な態度表明は見当たらなかった。
国立大学の運営費交付金/17年度以降は毎年削減
もしかすると、年間1%というと大したことがないように思えるかもしれないが、日本では労働法制上手がつけにくい人件費など費目を除くと、各部局に落ちてくる減額幅の要求は1%にとどまらず相当なものになることがわかる。これが毎年続いているのである。人件費については既存のポストについては手をつけにくいので、退職者ポストの補充凍結、新規採用人事から人件費のコントロールが比較的容易な年俸制任期付教員への置き換えが進められ、いよいよ人件費の削減等についても各国立大学で検討が始まっているはずである。
歴代ノーベル賞受賞者が口々に語る危機感「日本に基礎研究を伸び伸びやらせる環境なくなった」
日本の大学、順位低迷の理由に予算不足も?
なぜ東大は「世界大学ランキング」が低いのか 人文系学部「廃止騒動」は世界に逆行している | 学校・受験- 東洋経済オンライン
このようにノーベル賞受賞者らや、世界ランキングを提供するTHE社のコメント(下段記事内参照のこと)、冒頭の国立大学法人関係者らの声明を見ても、一様に教育研究投資の拡充、環境改善を要請している。なぜ、こうした声が一様に届かず、政策に反映されず、運営費交付金削減と競争的資金重視の政策傾向が続くのだろうか。
東大と慶應でクロスアポイントメントをもち、高等教育行政にも詳しいはずの鈴木寛氏の2015年のインタビューは正鵠を射ている。
世界大学ランキングでの苦戦は教育への投資を怠ってきた報い――鈴木 寛 文部科学大臣補佐官インタビュー
しかしその割には運営費交付金削減と競争的資金重視の政策傾向は少なくとも我々にはまったく変化の兆しが見えないように思われる。鈴木氏は2016年10月に大臣補佐官に任命されているはずだが、いったいどうなったのだろうか。
今年2016年の国会で国立大学法人法の改正が行われ、新たに指定国立大学法人制度が導入されることになった。多くの国立大学では指定に向けた準備でまた慌ただしくなっているに違いない。以前、ある有名な政治家が「この問題で我々のところに本気で陳情に来る人がいない」といっていたことを思い出したが、文教族の政治家でも良いし、文部官僚でもよいのだけれど、ぜひ有権者や関係者に現行政策の合理性についてわかりやすく提示してほしい。
ちなみに「産業競争力会議」の「成長戦略の進化のための今後の検討方針」には、下記の様に書かれていた。
卓越研究員をはじめ若手研究者の人材育成・強化等の観点から、科学研究費助成事業など競争的研究費の在り方について検討する。
しかしながら競争的研究費がもたらす間接経費では、たとえば建物の老朽化対策の予算や安定的なポストのための人件費は賄えない。問題は本来は各大学の特徴を自由に活かすために国立大学法人化した一方で、「財布」の権限委譲に十分に取り組まず、文科省がときどきの政策意向に応じて場当たり的かつ紐付きかつ競争的資金偏重にデザインしている影響が強いようにも思えるがどうか。
今のところまったく国立大学法人化のメリットを活かせていないうえに、国立大学の基礎体力を着実に奪っているとしか思えない。政府は2013年に「日本再興戦略」を掲げ、2023年に世界ランキング100位以内に10校以上をランクインさせるということを掲げている。この2013年の「日本再興戦略」には、次のように記されている(p.5)。
日本の大学を世界のトップクラスの水準に引き上げる。このため国立大学について、運営の自由度を大胆に拡大する。世界と肩を並べるための努力をした大学を重点的に支援する方向に国の関与の在り方を転換し、大学の潜在力を最大限に引き出す。
ここでいうところの「運営の自由度の大胆な拡大」は具体的には何を指しているのか不透明だ。「指定国立大学法人制度」のことかもしれないが、各国立大学法人は指定の獲得に躍起になっていて、まったく「自由度の拡大」には貢献していないように思われる。単なるボヤキだが、本文中の「年俸制の本格導入」が大学改革の「先駆的な取り組み」の筆頭に挙げられているが、適用対象は労働契約上新任の若手に限られる。筆者もその対象だが、資金繰りが乏しいなかだと昇給(幅)の期待に乏しく、あまりイノベーティブな人事戦略だという実感はない。むしろ動機づけに失敗しているようにさえ思えてくるが、どうか。少々検索してみて驚いたのだが、2013年版の「日本再興戦略」のなかには、「大学」という言葉が61箇所も出てくるようだ。それだけにとどまらない。最新版の「日本再興戦略 2016 ―第4次産業革命に向けて―」では、なんと156箇所に及ぶ。これは大学への期待なのだろうか。そのあたりはよくわからないし、とりあえず具体的アプローチの不透明な政策をとりあえずなんでもかんでも大学に絡めてみたように見えなくもない。しかしなにはともあれ「2023年に世界ランキングで大躍進」などという夢物語も良いが、関係者は国立大学法人の現状を直視するべきだ。