2016年11月28日月曜日

国立大学の現状についての基本的な4つの誤解について

なぜ日本の大学政策は国内外からの指摘にもかかわらず運営費交付金削減と競争的資金政策に拘り続けるのか(西田亮介)- Y!ニュース
今月前半、主に国立大学に関する上記の記事を書いた。筆者自身が国立大学に勤務し、日々大学で教育研究に携わっているなかで感じる違和についてまとめた記事だが、それなりに多く読んでいただいたようで、ポジティブなもの、ネガティブなものをふくめていろいろな反応があった。そのなかで幾つか典型的な誤解のパターンのようなものがあったので、少々時間がたったが、この問題を考えるにあたって基本的な補助線にもなりそうなのでさしあたり4点まとめておくことにした。
1.若手のポストがないというが、競争的資金で雇用すればよいので恒常的予算である運営費交付金の増額は必要ない。
競争的資金は科研費を筆頭に、現状、数年から10年程度の時限付きの予算が中心で、その予算を通じて直接、各部局の基幹教育研究のための教員は雇用できない。
2.若手のポストがないなら、年長世代の教員を解雇できるようにすればよい。
「優秀な人材が逃げる…」地方国立大、人件費削減に悲鳴:朝日新聞デジタル
最近、朝日新聞の教育関係の取材班が国立大学の問題に関心を持っているようで、立て続けに関連の記事を出している。世論形成やこの問題の周知にとって有難いことである。奇しくもその記事のなかで、山本行革大臣「山本幸三・行政改革相『学長は教授をクビにできるのか』」という主旨の発言をしたことが書かれているが、確かにネットでもしばしばこのような発言を見かけた。しかし少々日本の労働法規を思い出してほしいのだが、日本では整理解雇は原則として最後の手段となっており、民間企業でも実質的にはなかなか踏み切ることはできない(というよりも、かなり困難である)。大学でも同様で、若年世代の雇用を確保する必要はあるが、だからといって、年長世代を解雇したり、新規に流動的な契約に強制的に変更することはできない。それどころか、意識されることも少ないが、従来の給与体系からの変更を要求することさえかなり難しい。このあたりの認識が混乱していることもあって、現状、ポストが不足する若年世代を中心に、任期付き、年俸制を前提とした流動性の高い環境に置かれることになってある意味では本末転倒な状況が生じている。ちなみに任期付きでも特任等の職位でなければ、教授会や全学関係、入試関係の管理業務も担当する。
3.恒常的予算が減少しているなら、新しい収入源を見つけるべき
なかでももっとも簡単に思えるのが学費の値上げだろう。しかし大半の国立大学はそれをしていない。なぜか。国立大学は、その性質上、いわゆる学費(授業料)、入学料、検定料が制度で定められている。授業料についていえば、約54万円と規模やコスト、大学の学部等にかかわらず一律に定められており、「特別の事情があるときには」1.2倍まで値上げできるとされているが、ほとんどの大学で標準額のままになっている。この点は私立大学と国立大学との違いでもある。また定員や教員数についても、文科省に届け出た数字に拘束されているので、コストカットには限界がある。そもそも非営利組織であることからして、その性質上、社会との利益相反や特定企業等への利益供与にならないようにするといった点も考慮しなければならないなど、一般の企業よりも安定的な収入の拡大のための条件は多く、実際かなり難しいといえる。寄付やクラウドファンディングも、一時的なプロジェクトや研究費の調達には一定程度貢献するが、人件費や建物の老朽化対策等に適しているとは言い難い。
4.民間同様のマネジメントや評価手法を導入すべき
これも上記の朝日新聞の記事のなかの、山本行革大臣の「企業経営的な運営ができていない」という主旨の発言に象徴されているが、実態は国立大学法人化以後、かなり企業経営的な手法が導入されている。筆者もそうだが、近年採用された国立大学の准教授以下の職位の教員は年俸制と任期付きがかなり多くなっているはずだ。だが民間企業でも外資系などを除くと、年俸制と任期付きが最初からセットになった雇用はさほど主流になっていないはずだ。その意味では民間企業よりも踏み込んだものになっているともいえる。年俸制ということは、毎年かなりの数にのぼる評価項目を含んだ自己評価と部局長評価を踏まえた査定があり、給与の見直しが行われる。こちらも、一時期民間企業でも流行ったが、最近では効果が曖昧だということで見直しも進んだとされている。またすでに各所でいわれているように、財政的に逼迫しており、年俸制のなかに業績給の要素が含まれるものの、大幅な給与増や継続的な改善も望めず、適切なインセンティブ設計になっているとは思えない。給料とは別に研究費に入るが、国立大学全般の財政的制約のなかで、競争的資金を獲得したときの研究費のインセンティブが減額される傾向にさえある。
最近では河野太郎内閣府特命担当大臣が、競争的資金の実態や国立大学の問題に関心を持ち、研究者にブログで課題の集約を呼びかけたりするといったこともあった。
一連の朝日新聞の記事といい、少しずつ社会の関心が向きつつある雰囲気は感じる一方で、たしかに大学や当事者からの情報発信が十分ではないのも事実で(そもそもここで書いたような誤解がまかり通っていることにも、やはりこれまで十分な周知を行ってこなかった影響も少なくないように感じる)、それらを払拭するためにも当事者のひとりとしてこの問題を考えるための基本的な補助線を提供したいと考え、このエントリを書いたが、この問題の理解の一助になれば幸いである。
大学改革に関して、意外と規制による制約が多く存在し、大学内部での試行錯誤や創意工夫の余地が制約されていることを知ってほしいという願いがある。とはいえ、恐らく、今後大規模な運営費交付金の増額等は望めず、だとすればまさに本質的な改革のために大幅な規制緩和が必要ではないか。現状は予算も増やせないが、工夫のための権限も各大学には渡せないという状況で、国の政策に現場は右往左往せざるを得ない状況になっている。ある意味、三位一体改革以前の(しかし今も続く)地方分権改革の「失敗」と似ている。

2016年11月27日日曜日

今月2度目の『モーニングクロス』は…


11月30日(水) 朝。Tokyo MXか、アプリ「エムキャス」、ウェブにてご視聴ください。

https://mcas.jp/

2016年11月23日水曜日

The Features of "Workless Society" in Japan



先週の清華大学で用いたスライドです。提携校のため研究交流、教員交流も目的とされていたので、自己紹介などが通常より多めにとってあります。

R.Nishida, 2016, The Features of “Workless Society” in Japan 19, Nov. 2016@Tsinghua University.



2016年11月22日火曜日

2017年度4月入学研究室研究生の募集について

2017年度4月入学の研究室研究生の募集について、大学のホームページで告知が始まりました。

http://www.titech.ac.jp/graduate_school/international/research_students/data/syutugan/1_gansyo_j_a.pdf

ぼくの研究室での指導を希望する人は、下記の研究室案内とあわせてよく読んで、連絡してください。
https://sites.google.com/site/ryosukenishidalaboratory/

Innovation Nippon2016シンポジウム

Innnovation Nipppon主催のイベントに登壇、基調講演することになりました。今秋ずっと取材していた、最新の日本の政党の情報発信手法と戦略についてご紹介しようと思っています。よろしくお願いします。

≪≪≪≪≪≪ Innovation Nippon2016シンポジウムのご案内 ≫≫≫≫≫≫

◆タイトル:「情報の自由と活用を考える―政治・消費・対話のパラダイムシフト」

◆日時:2016年12月15日(木)13:10‐18:30

◆会場:東京ミッドタウン カンファレンスRoom7(ミッドタウンタワー4F)

◆主催:Innovation Nippon
 http://www.innovation-nippon.jp/

◆後援
グーグル株式会社
総務省(※申請中)
国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM)


◆概要
テクノロジーの進歩によって人々は大量の情報を自由に共有・発信出来るようにな
り、それらを活用することでさらなる社会の発展がある――。21世紀はそのような情
報化社会になるといわれ、実際に次々と生産・消費活動、ビジネスモデル、コミュニ
ケーション方法等が創造的に破壊され、社会は大きな変革を迎えようとしています。
しかしその一方で、情報の活用が進んでいない地域・分野が多いことや、情報の自由
と責任のバランス等、社会が検討すべき課題は多くあります。
Innovation Nippon 2016では、情報の自由と活用促進について改めて考えるため、政
治・経済・コミュニケーション等の幅広い視点から実践的研究を行ってきました。シ
ンポジウムでは、「地方創生とIT活用」「情報シェアの経済的インパクトと政策」
「ITと選挙」についての新たな知見を公表するとともに、ITによってもたらされた情
報の自由と活用、そして情報社会の未来について議論します。


◆プログラム

・プロローグ(13:10-13:20)

・Session 1「地方創生をITの力で促進する」(13:20-14:50)
―基調講演①:今川拓郎(総務省情報流通行政局情報流通振興課長)
―基調講演②:田村祥宏(株式会社イグジットフィルム)
―パネルディスカッション:
 今川拓郎(総務省情報流通行政局情報流通振興課長)
 田村祥宏(株式会社イグジットフィルム)
 河野秀和(シタテル株式会社代表取締役)
 【モデレータ】庄司昌彦(国際大学GLOCOM主任研究員・准教授)

・Session 2「人々の情報シェアがもたらす経済的インパクトと政策的検討」
(15:05-16:35)
―基調講演:山口真一(国際大学GLOCOM研究員・講師)
―パネルディスカッション:
 木村忠正(立教大学社会学部教授)
 津田大介(ジャーナリスト)
 福井健策(弁護士(日本・ニューヨーク州))
 山口真一(国際大学GLOCOM研究員・講師)
 【モデレータ】高木聡一郎(国際大学GLOCOM主幹研究員・准教授)

・Session 3「ITがもたらす選挙のイノベーション」(16:50-18:20)
―基調講演①:西田亮介(東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授)
―基調講演②:庄司昌彦(国際大学GLOCOM主任研究員・准教授)
―パネルディスカッション:
 清原聖子(明治大学情報コミュニケーション学部准教授)
 庄司昌彦(国際大学GLOCOM主任研究員・准教授)
 西田亮介(東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授)
 渡瀬裕哉(早稲田大学招聘研究員)
 【モデレータ】関口和一(日本経済新聞社編集委員)

・総括(18:20-18:30)


◆参加のお申込み/ Webイベントページ
下記URLにアクセスしお申込みフォームよりご登録ください。
Sessionごとのお申込みが可能です。ご参加希望のSessionを選択してください(複数
可)

http://www.glocom.ac.jp/events/2022

*本シンポジウムは、無料でご参加いただけます。
*アクセス元の環境によっては、上記URLの申込みフォームが表示されない場合がご
ざいます。その場合はお手数ですが、電子メールにてお問い合わせください。
*各Sessionの定員(各回120名)に達しましたら、お申込み受付を終了いたします。
お早めのお申し込みをお待ちしております。

2016年11月18日金曜日

中国

校務の出張で今日の夕方から明後日午後まで中国は清華大学に行ってきます。Google依存状態なので、メールの返信等も滞ると思いますがご容赦ください。

2016年11月17日木曜日

『ザ・議論! 「リベラルVS保守」究極対決』

版元の出版社さんからいただきました。著者との面識もなく「なぜ?」と思いながらページをめくっていたら、終わりのほうで法哲学者の井上達夫先生に少し長めに言及いただいていたので、それが献本いただいた理由のような気がしてきました。


2016年11月16日水曜日

「西田亮介の新書、文庫、雑誌で始めるリベラルアーツゼミ」リアル読書会レポート

Synapseのオウンドメディアでぼくのオンラインサロンが紹介されています。Synapseのなかの人でぼくのサロンに参加している田尻さんの執筆です。かなり詳細かつ的確に雰囲気を描写してくれていますので、ぜひ一読してみてください。

2016年11月15日火曜日

LINE BLOG

これまで著名人のみに限定してきたLINE BLOGがいよいよ一般ユーザーにもアカウント開設を認めたということで、早速作ってみました。

http://lineblog.me/ryosukenishida/

更新はスマホのみで可能と、PC世代にとっては些か厳しい仕様となっておりますが、下記のエントリでけんすうさんが推論しているような戦略にはかなり首肯できるうえに、たしかに国内最大ユーザーを抱えるLINEが自己完結するエコシステムを形成するのであれば、そこへの対応の遅れは、日本語圏内での情報発信という意味では致命的なものになりかねません…。

LINE BLOGの設計が秀逸すぎる件について考察 - けんすう
http://lineblog.me/kensuu/archives/00144.html

正直、過去にnoteのアカウントを開設したものの、使いみちがイマイチわからなかったり、という経験を抱えているのですが、今回は新興サービスというよりは最大手の構想ということですから、ぼーっと眺めているだけではすまないような気がして、とりあえずアカウントを開設してみました。これを機に、もっとスマホシフトできるよう身体を対応させていきたいです…(正直しんどい

2016年11月13日日曜日

11月10日、11日@TOKYO MX『モーニングクロス』

11月10日、11日と、アメリカ大統領選挙のトランプ勝利を受けて、VTR出演しました。9日の投票日当日午後に収録したものです。ぼくはもともとヒラリー勝利と思っていたので端的にハズれですが、現状踏襲の楽観シナリオと、選挙戦中のトランプ発言を踏襲する予測不可能な悲観的シナリオがあり、前者の仮説からのコメントでした。後者の場合は、端的にカオスで悲劇的です。

2016年11月9日水曜日

「日本の精神性が世界をリードしていかないと地球が終わる」 安倍昭恵氏インタビュー

安倍昭恵さんとの「対談」と、その影響力、政治性について(西田亮介) - Y!ニュース
http://bylines.news.yahoo.co.jp/ryosukenishida/20161027-00063761/

上のエントリで予告していた「対談」が公開されました。かなり話題になっているようです。

「日本の精神性が世界をリードしていかないと地球が終わる」 安倍昭恵氏インタビュー
http://blogos.com/article/197071/

サードプレイス「西田亮介 ride on the politics」もRadikoのタイムシフト機能を利用できます。

ぼくがパーソナリティを務める東京、大阪等を除くJFN系列各局毎週火曜日朝5時半〜サードプレイス「西田亮介 Ride on the politics」もRadikoのタイムシフト機能を活用できます。プレミアムうの契約をすれば、東京等でも聴取可能ですので、よろしくお願いします。以下に、FM群馬のリンクを貼っておきます。

http://radiko.jp/#!/ts/FMGUNMA/20161108053000

2016年11月8日火曜日

#surfing #beach #somewhere #chiba

Nishida, Ryosukeさん(@ryosukenishida)が投稿した写真 -

11月7日(月)TOKYO MX『モーニングクロス』コメンテータでした。


黒田さんやタケ小山さん世代の、いい感じの先輩世代の方々の元気キャラに不元気キャラのぼくも元気をいただいてきました。

2016年11月6日日曜日

11月5日に青木裕子さんナビゲートのJ-WAVE 「RAKUMACHI BIZ8」に出演しました。

11月5日に青木裕子さんナビゲートのJ-WAVE 「RAKUMACHI BIZ8」に出演しました。
http://www.j-wave.co.jp/blog/acoustic/archives/news_topics/

アメリカ大統領選挙におけるネット選挙やメディア戦略、日本への影響等にコメントしています。青木裕子さんが83年生まれで、学部は違えど慶應卒ということで、ちょっと親近感を持ちました。ナイナイ矢部さんと結婚したことは知っていましたが、同い年や慶應卒とは全然知りませんでした…。

2016年11月4日金曜日



モダンなツインフィンでのライディング。力が抜けてるけど、今風のアクションで良い感じでは。

2016年11月2日水曜日

なぜ日本の大学政策は国内外からの指摘にもかかわらず運営費交付金削減と競争的資金政策に拘り続けるのか

昨今、にわかに大学、とくに国立大学法人の経営難と環境悪化が報じられている。
国立大の基礎研究費削減、全国の理学部長らが反対声明:朝日新聞デジタル
国立33大学で定年退職者の補充を凍結 新潟大は人事凍結でゼミ解散 | THE PAGE
大学ランキングに一喜一憂するべきではないという声明も出されるが、自分の研究室に来た留学生たちに聞いてみても、一様に大学ランキングは見ているという。ひとつの大学選択の基準になっていることは否定出来ないだろう。その大学ランキングのひとつ、タイムズ・ハイヤー・エデュケーション(THE)で、日本の大学ランキングは近年低迷傾向にある。THE2016-2017年版では東大は世界ランキング39位、東アジア7位となった。世界ランキング100位以内にランクされているのは、東大と京大のみである。なお理工系が強い項目を重視するため、私大はこのランキング上位(アジア上位50位内)には出てこない。
もうひとつの著名なランキングQSでは、東大が世界34位、京大37位、東工大56位、阪大63位、東北大75位など、100位以内にもう少し多くの大学がランクインしている。
中国は別枠としても、シンガポールや香港のような小さな国、地域は大学の数も少なく集中投資可能だが、大学が質量ともに多様で、大学制度が一定の成熟を見せた日本ではそうもいかないため、独自のアプローチは必要だ。
それにしても、なぜ日本の大学政策は国内外からの指摘にもかかわらず運営費交付金削除を継続し、競争的資金政策に拘り続けるのだろうか。年間1%削減を継続し、すでに国立大学の法人化以来10年あまりその削減を継続している。投資の増額はともかくとして、1%のカットを10年続ければ10%カットである。そして、国立大学法人は全国で86存在するが、この10年で10%、総額約1200億円がカットされている。
旺文社の下記の資料は運営費交付金の動向について端的にまとまっていた。
たまたま共産党が、運営費交付金削減が将来の大学学費値上げにつながるため、反対という姿勢を取っている「しんぶん赤旗」の記事を見つけた。素朴だがわからない態度表明ではある。その他の政党については、この問題に関するあまり明確な態度表明は見当たらなかった。
国立大学の運営費交付金/17年度以降は毎年削減
もしかすると、年間1%というと大したことがないように思えるかもしれないが、日本では労働法制上手がつけにくい人件費など費目を除くと、各部局に落ちてくる減額幅の要求は1%にとどまらず相当なものになることがわかる。これが毎年続いているのである。人件費については既存のポストについては手をつけにくいので、退職者ポストの補充凍結、新規採用人事から人件費のコントロールが比較的容易な年俸制任期付教員への置き換えが進められ、いよいよ人件費の削減等についても各国立大学で検討が始まっているはずである。
歴代ノーベル賞受賞者が口々に語る危機感「日本に基礎研究を伸び伸びやらせる環境なくなった」
日本の大学、順位低迷の理由に予算不足も?
なぜ東大は「世界大学ランキング」が低いのか 人文系学部「廃止騒動」は世界に逆行している | 学校・受験- 東洋経済オンライン
このようにノーベル賞受賞者らや、世界ランキングを提供するTHE社のコメント(下段記事内参照のこと)、冒頭の国立大学法人関係者らの声明を見ても、一様に教育研究投資の拡充、環境改善を要請している。なぜ、こうした声が一様に届かず、政策に反映されず、運営費交付金削減と競争的資金重視の政策傾向が続くのだろうか。
東大と慶應でクロスアポイントメントをもち、高等教育行政にも詳しいはずの鈴木寛氏の2015年のインタビューは正鵠を射ている。
世界大学ランキングでの苦戦は教育への投資を怠ってきた報い――鈴木 寛 文部科学大臣補佐官インタビュー
しかしその割には運営費交付金削減と競争的資金重視の政策傾向は少なくとも我々にはまったく変化の兆しが見えないように思われる。鈴木氏は2016年10月に大臣補佐官に任命されているはずだが、いったいどうなったのだろうか。
今年2016年の国会で国立大学法人法の改正が行われ、新たに指定国立大学法人制度が導入されることになった。多くの国立大学では指定に向けた準備でまた慌ただしくなっているに違いない。以前、ある有名な政治家が「この問題で我々のところに本気で陳情に来る人がいない」といっていたことを思い出したが、文教族の政治家でも良いし、文部官僚でもよいのだけれど、ぜひ有権者や関係者に現行政策の合理性についてわかりやすく提示してほしい。
ちなみに「産業競争力会議」の「成長戦略の進化のための今後の検討方針」には、下記の様に書かれていた。
卓越研究員をはじめ若手研究者の人材育成・強化等の観点から、科学研究費助成事業など競争的研究費の在り方について検討する。
しかしながら競争的研究費がもたらす間接経費では、たとえば建物の老朽化対策の予算や安定的なポストのための人件費は賄えない。問題は本来は各大学の特徴を自由に活かすために国立大学法人化した一方で、「財布」の権限委譲に十分に取り組まず、文科省がときどきの政策意向に応じて場当たり的かつ紐付きかつ競争的資金偏重にデザインしている影響が強いようにも思えるがどうか。
今のところまったく国立大学法人化のメリットを活かせていないうえに、国立大学の基礎体力を着実に奪っているとしか思えない。政府は2013年に「日本再興戦略」を掲げ、2023年に世界ランキング100位以内に10校以上をランクインさせるということを掲げている。この2013年の「日本再興戦略」には、次のように記されている(p.5)。
日本の大学を世界のトップクラスの水準に引き上げる。このため国立大学について、運営の自由度を大胆に拡大する。世界と肩を並べるための努力をした大学を重点的に支援する方向に国の関与の在り方を転換し、大学の潜在力を最大限に引き出す。
ここでいうところの「運営の自由度の大胆な拡大」は具体的には何を指しているのか不透明だ。「指定国立大学法人制度」のことかもしれないが、各国立大学法人は指定の獲得に躍起になっていて、まったく「自由度の拡大」には貢献していないように思われる。単なるボヤキだが、本文中の「年俸制の本格導入」が大学改革の「先駆的な取り組み」の筆頭に挙げられているが、適用対象は労働契約上新任の若手に限られる。筆者もその対象だが、資金繰りが乏しいなかだと昇給(幅)の期待に乏しく、あまりイノベーティブな人事戦略だという実感はない。むしろ動機づけに失敗しているようにさえ思えてくるが、どうか。少々検索してみて驚いたのだが、2013年版の「日本再興戦略」のなかには、「大学」という言葉が61箇所も出てくるようだ。それだけにとどまらない。最新版の「日本再興戦略 2016 ―第4次産業革命に向けて―」では、なんと156箇所に及ぶ。これは大学への期待なのだろうか。そのあたりはよくわからないし、とりあえず具体的アプローチの不透明な政策をとりあえずなんでもかんでも大学に絡めてみたように見えなくもない。しかしなにはともあれ「2023年に世界ランキングで大躍進」などという夢物語も良いが、関係者は国立大学法人の現状を直視するべきだ。