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西田亮介研究室について (about Dr. Ryosuke NISHIDA's Lab.@titech)
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2015年7月20日月曜日

安保法制の採決プロセスを忘却/記憶できるのか

7月16日に安保法制の衆院での採決が行われた。政府与党と野党の温度差と隔たりは大きく、安倍内閣の支持率低迷を招いた。
<本社世論調査>内閣支持率急落35% 不支持51%(毎日新聞)- Yahoo!ニュース
安保法制の議論が支持率急落を招いたことは疑いえない。筆者の関心は、有権者が、次の(国政)選挙まで、この安保法制の採決プロセスを忘却/記憶できるのか、野党がそれまでに経済成長とセーフティネット拡充の両立を、政治的/政策的な意味で現実的に描いた選択肢を提示できるのかということにある。
安保法制に態度表明する難しさ(西田亮介)- Y!ニュース
両者は鶏と卵の関係に似ている。選択肢がないから、国政選挙まで記憶できないのか、記憶できないからオルタナティブが勢力を伸ばせないのかという問いの答えは自明ではないが、足元が脆いと言われつつも自民党の一人勝ち状態は続いている。
前回の2014年衆院選時に毎日新聞社と筆者は世論調査に政治感情に対する質問を取り入れ、「現在の政治にネガティブな感情を抱きつつも、現政権を支持する」という捻れた状態があることを明らかにした。
衆院選:有権者…政治にいら立ち、あきらめの感情も- 毎日新聞
「現在の政治にネガティブな感情を抱きつつも、現政権を支持する」という状態は、どのように変化するのだろうか。現在の政治とメディアはどうか。政治の状況は大きくは変わっていない。古典的な対立図式が観察されるように思われる。
メディアはどうか。安保関連法案の衆院通過の、翌7月17日には、デザインとコストで迷走していた東京五輪の新国立競技場の計画の白紙撤回を表明するなど、「首相のリーダーシップ」を印象付けるメディア・イベントが続いている。
一般にマスメディアは紙幅/番組放送時間に限界があり、話題性の高いニュースを優先しようとする性質がある。逆に政治広報は、その性質を活かして、広まってほしくない、ネガティブなニュースがあるときは情報発信量を増やす。ネガティブな情報を、大量の情報で「希釈」してしまおうというわけだ。新聞の朝刊の出稿時間等まで逆算するという。
筆者は「イメージ政治」と呼んでいる。有権者が急な解散や複雑な政局のなかで、政治に対する理解や認識を形成できず、また政治もそこに付け込んで印象獲得に積極的になるといった理由で、「イメージ」に基いて政治が駆動する状態のことである。
政治マーケティングの戦略と技術は向上し、情報化社会におけるスピンドクターたちは、「データに基づくイメージ政治」を実践する一方で、デコード(解読)するジャーナリズムは遅れをとっているという認識である。
他方で、意外にも自民党は、短期的な支持率よりも法案成立が重要という古典的な態度を示している。
<安保関連法案>「支持率犠牲にしても成立を」自民副総裁(毎日新聞)- Yahoo!ニュース
「喉元過ぎれば熱さを忘れる」ではないが、移ろいやすい有権者の関心や集中力を念頭においていると思われる。
政治の状況が大きく変化しない以上、有権者は安保法制の採決プロセスを忘却/記憶できるのか、ということが重要になる。ボトムアップによるものか、組織的な関与があるのかはよくわからないが、「反安倍内閣」の動きは、少なくとも印象獲得という水準では意外と継続している。
社会学者の遠藤薫は、複数のメディアが相互参照しあうような現代社会の特性を「間メディア社会」と呼んだが、デモをファッショナブルに実施し、そのデモを撮影し、ソーシャルメディア上のハッシュタグで記録拡散し、それを既存メディアが取り上げるという一連のサイクルが生じている。
日本よりもネットが普及した韓国では、2000年代前半の大統領選挙で落選運動が影響した。筆者の認識では、日本では一部のケースを除き、オンラインの落選運動が、政治の動向に顕著な影響を与えるまでには至っていない。
だが、前述のように、少々状況も変わり始めているようにも見える。政治は与党野党ともに古典的な状況だが、メディア環境の変化は早い。とくに日本のように、マスメディアのインパクトが強力な社会では、マスメディアが動くと一気に動く。マスメディアがネット、とくに「リアルタイム」の、ソーシャルメディア上の情報を参照することが近年急に増えた点である。
果たして、大量の政治情報が溢れるイメージ政治下のもとで、わたしたちは次の(国政)選挙まで、この安保法制の採決プロセスを忘却/記憶できるのか、それとも「喉元過ぎれば熱さを忘れる」という政治の古典的な有権者観が正しいのか、注目したい。