2015年1月8日木曜日

民主党代表選候補者共同記者会見とその「印象」


 1月7日の14時から、7日告示、18日投票の民主党代表選候補者共同記者会見が開催され、長妻昭、細野豪志、岡田克也の3氏が記者会見に挑んだ。
3氏の推薦者、略歴、政策は、こちらから。http://www.dpj.or.jp/presidentialelection201501 
まず簡単に政策に目を向けると、集団的自衛権の閣議決定には否定的。ただし、現実的な安全保障の議論は必要という点も共通。野党再編については、3氏とも現時点では、政策が離れていることを理由に、否定的。少子高齢化対策の必要性、地方活性化の必要性も共通する。
言及されなかった政策に目を向けても、長妻氏のリベラル色が際立つものの、3氏の政策的主張は課題点も含めてそこそこ似ており、政策だけ見ると区別をつけづらい。ただ、安倍政権と対峙するという意味では、金融緩和をどのように評価するのか、民主党はどのような金融政策を採用するのかという点には、3者とも明確には言及していない。この点は課題に見える。
しかし、何はともあれ、課題も含めて、政策で区別を付けづらいのであれば、(民主党と関係者内の)基礎票と、メディアと選挙期間中の印象戦が重要になってくると思われる(余談だが、筆者と毎日新聞社は、先日の衆院選で「政治と印象」について、幾つかの分析を行った)
「印象」に注目すると、今日の記者会見はなかなか興味深かった。席順、スピーチの順番は、届け出順か、長妻氏、細野氏、岡田氏という順番で行われた。3氏とも服装はスーツにネクタイ、岡田氏は網膜剥離の手術明けのため眼帯をしており、顔がむくみ、髪型も違和があるものだった。
口調は、長妻氏がやや早口で高め、話している途中で思わず力が入り、拳で机を叩く。語調も「だ、である」調に。一見、力強そうだが、机を叩く音をマイクが拾って、不愉快なノイズになっている。細野氏は声に張りがあり、比較的ゆっくりと、語を切りながら、明晰に発話していた。事前にかなりスピーチの練習をしたものと思われる。もしかしたら、イメージコンサルティングを受けているかもしれない。ただしネクタイは淡い水色で、映像的にはあまり映えない。入院明けの岡田氏は、さすがに見るからに具合が悪そうで、声に覇気が感じられない。薬の影響か、滑舌も悪かった。ところで、2番目に喋った細野氏の印象のみ、前後の話者との直接の比較が可能で、相対的に自信がありそうに見える。
トークの内容についても、少し見てみよう。長妻氏は、「格差が限界に来ている」「野党としての、政権の徹底監視」「熟議をして、そのあと一枚岩になる」という内容。年金問題で知られ、リベラル色の強い同氏の特色を強く打ち出しているといえる。
興味深いのは、本来、野党再編に関心をもつはずの細野氏である。細野氏は「民主党に対する愛着の強さ」「15年間1度も造反はしたことがない」「(過去の民主党の失敗の)反省」「民主党はインフォーマルなやりとりが減っている、これを増やしたい」「国会議員全員が同じ付き合いをするのは無理。グループはできるが、ピンチの時は助けあうほうが全体としてはまとまる」という包摂的な言葉遣いをした。これは多様性を擁護するという今回の政策とも合致する。
岡田氏は「民主党の多様性が失われている」「ひとりひとりに覚悟を求める」「リベラルよりは保守中道、自民党宏池会がもっていたような考え方も包含するかたちで民主党は存在する」「党の中に派閥を作ってはいけない」という。これは自身がかつて代表や幹事長を務めたことを思い起こすと、微妙にネガティブなニュアンスを残すのではないか。
さて印象に注目するとき、とくに興味深いのは、記者会見終了直前の三者が手を組んだ取材用ショットだ。

民主党代表選共同記者会見
民主党代表選共同記者会見

前述のように、写真の並び順は、座った順番そのままなので、細野氏を中央に、2氏が左右に寄り添う構図になっている。実年齢でも細野氏が若いが、しかも身長がずば抜けて高く、にこやかな笑みを浮かべている。長妻氏も笑顔だが、岡田氏は笑顔が、ややぎこちないか。中身や実態を棚上げして、このビジュアルだけみたとき、誰がリーダーのように見えるかといえば、言わずもがなだろう。そして、このビジュアルは夕方以後のニュース番組や新聞、ネットコンテンツなどで、広く、そして繰り返し出回るはずだ。
このように、記者会見を通して概観してみると、計画、計算されたものか、それとも偶然なのかは分からないが、今回の記者会見の印象戦は、細野氏が一枚上手だったように見える。
ところで、ここまでしつこく取り上げてきたものの、民主党の代表選は、基本的には何をやっても民主党の内輪のゲームである。というのも、民主党員でも、サポーターでもない、筆者も含めた一般有権者は投票権を持たないからだ。しかも政策を実行する与党でもないから、実は何を主張したとしても、かたちになるのは、最低でも衆参の国政選挙に民主党が勝利してからということになるので、かなり気の長い話である。
報道関係者や、筆者のような研究者は、なんとなく動向を注視しているが、いったいどれほどの人が関心を持っているのか、というと正直なところ良くわからない。そもそも先日の衆院選の投票率が52.66%という過去最低の数字を記録したが、野党とその代表にまで関心を持つものなのだろうか。
そのようななかで、たとえば、森たかゆき中野区議会議員(民主党)は、「#民主党に言いたい」というハッシュタグを設けたりして、一般有権者の関心を巻き込もうとしている。とはいえ、個別の取り組みに比べると、党として、具体的にどのように巻き込もうとしているのかは、あまり見えてこない。やらないよりは良いが、今さらニコ生で討論会をやれば良いというものでもないだろう。
代表選も良いが、早く政党として、どのような理念を主張し、どのような政策を主張していくのか、それらの実行のためにどのように有権者を巻き込んでいくのかを旗幟鮮明にすべきだ。ときに新自由主義的と評される安倍政権のもとでも、着々とリベラル政党のお鉢を奪うかのような若者の雇用対策が具体化しようとしていたりする。こういうとき、与党は有利だ。
若者の雇用改善へ、企業の認定制度…対策法案 : 読売新聞(YOMIURI ONLINE) 
http://www.yomiuri.co.jp/job/news/20150107-OYT8T50016.html
またかつて民主党も力を入れた規制緩和は、維新の党の代名詞になっている。民主党は主体的には意図しないままに、相対的な政党のポジションがかなり変化している。ところが、民主党自身は、少なくとも外形的には、あまりそのことに自覚的ではないようでもある。そろそろ有権者に主張を明確に伝えていかなければ、来年の参院選はおろか、今年の統一地方選も危ぶまれるのではないか。
なお、3人が手をつないだ写真について、ちょっと検索しただけでも、たとえば、毎日新聞やスポーツ報知が採用していた。動画ニュースのコンテンツを見ると、やはりニュース番組でも、少なからずこの写真を締めに用いたようだ。この写真が視聴者に与えた「印象」について、改めて考えてみてほしい。
<民主代表選>再生へ論戦開始 長妻、細野、岡田氏届け出(毎日新聞)- Y!ニュース 
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150107-00000110-mai-pol
長妻、細野、岡田3氏が民主代表選立候補!18日投開票(スポーツ報知)- Y!ニュース 
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150107-00000087-sph-soci
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