2015年1月23日金曜日

「問題の社会化」こそが、新しいジャーナリズム・イノベーションの姿であり、 「無業社会プロジェクト」はまさにそのパイロットケースだ


JCEJ ジャーナリズム・イノベーション・アワードに、下記の2作品を共同で出品したことを昨日ご紹介しました。
・毎日新聞『インターネットと政治』報道〜2013―2014〜
毎日新聞『インターネットと政治』取材班+西田亮介(立命館大特別招聘准教授)

・NPOと研究者の協働による民間で完結した無業社会の実態調査と政策提言
認定NPO法人育て上げネット+西田亮介(立命館大学特別招聘准教授)

後者のブースで配布する文書を公開します。ぜひ、当日、会場にいらっしゃってみてください。

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「問題の社会化」こそが、新しいジャーナリズム・イノベーションの姿であり、
「無業社会プロジェクト」はまさにそのパイロットケースだ

西田亮介
立命館大学大学院先端総合学術研究科特別招聘准教授

日本でジャーナリズムというと、新聞、テレビ等のマスメディアによる組織ジャーナリズムと、筆一本で権力と対峙する孤高のジャーナリストが名実ともにその主役の座を占めてきた。それらがこれまでジャーナリズムを担ってきた主体であることは明らかだが、ジャーナリズムの硬直化と自家撞着が昨今の課題であることもまた事実である。
しかしながら、若年無業者支援に10年取り組み、これまで2万人以上の就労実績を持つ認定NPO法人育て上げネットと、社会学、政策学の研究者である筆者による「NPOと研究者の協働による民間で完結した無業社会の実態調査と政策提言」(以下「無業社会プロジェクト」と表記)が、どのようにジャーナリズムと関係があるのか疑問に思う人も少なくないのではないか。
しかし筆者の見解では、本プロジェクトは、少なくともⅰ)クラウドファンディングという資金調達、ⅱ)マルチステイクホルダー(多様な主体の参画)、ⅲ)データとデータ分析に基づく白書の執筆(調査報道)、ⅳ)新書(『無業社会』)とマスメディアの関連企画等という普及啓発活動、ⅴ)現在進行中の政策提言のプロジェクトという5つの特徴がある。
「無業社会プロジェクト」の、これらの一連の「問題の社会化」の取り組みは、従来とは異なる主体の連携、ITを用いた資金調達、データ分析を取り入れたデータ・ジャーナリズム、ニッチとされる話題の新書やマスメディア企画を通じた普及啓発、また問題解決のための政策提言というアプローチは、まさしく新しいジャーナリズムの姿といえるのではないか。
本プロジェクトの最初の原資は、クラウドファンディングサイトを用いて、108人から約89.8万円の支援をいただき、始まった。またこれまで問題の重要性は指摘されていながら被支援者の生活実態に関する定量的調査が乏しく、約2000人の被支援者の生活実態に関する定量的分析を実施し、白書にして500部の紙媒体と電子書籍を制作した。さらに白書では一般の人が手に取りにくいので、新書を執筆し、関連企画としてNHKの番組企画となるなど、普及啓発に務めてきた。そして、今、若年無業者に関する政策について、所轄省庁を越えて網羅的に洗い出し、その課題を探索して、問題解決のための政策提言に取り組んでいる。
このように「無業社会プロジェクト」の一連の「問題の社会化」の取り組みは、一見、ジャーナリズムと縁遠そうで、実はジャーナリズム・イノベーションの優れたパイロットケースなのである。ぜひ、それぞれの成果を、手にとってご覧いただければ幸甚である。