2014年2月22日土曜日

「JK課」が抱える幾つかの問題

自治体が、女子高生のアイディアを活用するという「JK課」が(おそらくはネット中心に)話題になった。

発端は、朝日新聞の記事だった。

これを書いている時点で、ツイートが2904件、Facebookの「おすすめ」が4137件となっているから、
かなり読まれた記事といえる。

しかし、この記事はいくつかの「間違い」を含んでいる。この記事には次のように書かれていた。
今春、課員が全員女子高生という「JK課」を市役所内に設ける。若い感性で行政と市民の垣根を取り払い、まちを活性化させるのが狙いだ。 市内の高校に通う1、2年生の女子生徒18人がすでに課員に内定。
というのも、実際には市役所内のガバナンスにこのような「課」を設けるわけではない。したがって、課員は存在しない。この「JK課」は、「女子高生が企画立案し、大人がサポートするまちづくりプロジェクト」なのだ。

詳しくは当該自治体は、この件について、「お知らせ」を出している。
http://www.city.sabae.fukui.jp/pageview.html?id=14528

そして、この記事は、デスクの指示か、記者本人の意志かは判別不可だが、意図的に上記のようになっている可能性が高い。この企画は、平成26年度の予算案の記者会見で注目されることになったが、当該自治体のこの企画の立案プロジェクトに間接的にかかわった人によると、前述の記事の記者はこの企画の立案過程から取材に入っていた。ということは、自治体のなかに、課ができ、女子高生が課員がなるわけではないことを事前に理解していた可能性が高い。

たとえば、中日新聞系の『日刊県民福井』は、上記のような事実に言及した報道を行った。
http://www.chunichi.co.jp/kenmin-fukui/article/kenmin-news/CK2014022002000219.html

先の、朝日新聞デジタルの記事は、もし事実誤認なら訂正報を出すレベルではないかと思えるし、もしそうでないなら、新聞の批評性どころの騒ぎではない。PV欲しさの媒体となんら変わりない。

ネットで圧倒的に拡散したのは、全国紙の存在感に支えられた前者だった。筆者自身も、後者の記事を最初は発見できないままに、エントリを書いてしまった。
自治体は革新性を求めるあまりに「JK」という実はハイリスクな表層的記号に安易に飛びつくべきではない。(西田 亮介)- Y!ニュース
http://bylines.news.yahoo.co.jp/ryosukenishida/20140220-00032845/

そのうえで、やはり基本的な認識に変化はない。自治体は「JK課」などという名称を用いるべきではないだろう。「JK」などという用語を用いた時点で、こうしたリスクは容易に想定できたはずだ(事前に、想定できなかったとしたら、その提案者は果たして、信頼に足るプロなのだろうか?)。

過去に似た取組で、炎上した九州の自治体の取組もあった。若者や女性のまちづくり事業への参加を促進するにしても、こうした名称を使う必然性などどこにもないはずだ。当事者たちの意図とは一切無関係に、ネガティブな性的イメージを喚起してしまいかねない(むろん、当事者の女子高生たちが非難されるべきでもない)。

実際、自治体名と課名で検索して、リアルタイム検索や2ちゃんねるのまとめサイトを見てみると、好機と嘲笑であふれている。仮に当事者らの合意があったとしても、彼女らは未成年者であり、リスクからは逆に大人がサポートしているのであればなおのこと、適切にアイディアをマネジメントする必要があったのではないか。

もしこのようなリスクを承知のうえで、それでもこの名称で、このような事業を担うのだとしたら、ベネフィットをどのように具体的に見積もっていたのだろうか。プロセスレベルでは事前準備もあったと伝え聞くが、しかしながら、少なくとも当該の予算案など、いくつかの資料に目を通した限りでは、ベネフィットの具体像はまったく見えてこないままだ。
企画というのは、いうまでもなく、コストとベネフィットで成り立つわけだから、リスク高の企画を導入するからには、せめて、ベネフィットの具体像と工程表は必須なのではないか。容易に想定されるリスクについては、事前の対応策も必須のはずだ。

むろん不幸も重なった。先の悪意あるメディアの報道、そして、いうまでもなく、地方自治体の職員の方々はPRやネットの専門家ではない。しかも、主要事業の一覧表によると、この事業は、提案型事業の提案を受けて、(事業経験の少ない)若手職員の新規企画枠として、予算化されたように見える。いずれにせよ先のメディア報道にかかわらず、練度とリスク管理の観点に、少なからず課題があったのではないか。

当該自治体は、伝統産業の革新や、最新の情報化の導入を積極的に取り組んでいる自治体だ。それだけに、尚更のこと、奇をてらいすぎた手法を採用する必要はなかった。若者や女性の知恵を活用する、本質的に革新的な企画に期待したい。