2012年12月18日火曜日

改正労働契約法が博士院生・若手研究者に及ぼす(少なくない)影響

大学院で学んでいたり、職を持っている場合、普段労働契約法を気にする機会は少ない。裁量労働制が一般的だし、研究者を目指すものにとって業務と業務以外のはっきりとした区別が難しいからだ(たとえばぼくの読書時間は業務時間?業務外時間?といったように)。

ところが2013年4月から施行となる労働契約法の改正は大学業界、とくに博士院生やPD(ポストドクトラルフェロー:任期付きで有償で働く研究員、といった意味です。大学業界外の方向けに)、任期付きで働く若手研究者(ぼくもここに含まれますね)にとって、かなりクリティカルなものであることは知っておいたほうがいいと思われるのでメモがてら記載しておく。

2012年に労働契約法の改正が行われた。下記はそのポイントだ

厚生労働省「労働契約法の改正について~有期労働契約の新しいルールができました~」
http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/keiyaku/kaisei/
改正の主旨は「有期労働契約の反復更新の下で生じる雇止めに対する不安を解消し、働く方が安心して働き続けることができるようにする」(上記資料より引用)ことなのだけれど、ポイントとして有期契約が5年を越えた場合、無期雇用に転換しなければならない、という規定が存在することだ。つまり通算5年を越えるパートやアルバイトを含む有期労働契約が存在するときには、本人の申し出があれば無期労働契約を結ばなければならない。

大学業界にどのように関係してくるというと、SAやTAでも多くの場合、大学と労働契約を交わしていることだ(とはいえ、SA、TAというのは、日本ではおよそ月5万円未満程度の収入が多いのではないか)。たとえば修士、博士とSA、TAを勤めたとすると、およそ5年である。博士3年生の人にとってはまったく珍しいことではないだろう。むしろ一般的といってもよいはずだ。しかし、そうすると、博士課程修了者のもっとも多いキャリアパスである同一機関でのPDというキャリアが事実上選択できなくなってしまう。既に5年の労働契約を大学と結んでいるからだ。あるいは同様にPDで3年働いたあとに、同一法人で、これまた主流と思われる3年任期の助教、講師への就任も難しくなるだろう。そして2013年4月1日から施行ということは、現在選考中と思しき2013年4月1日からの大学でのポストの選考に、同法の定める条件が影響を及ぼしてしまう可能性がある。

もともと大学を除外対象にする、という話もあったようだが、結局はそうはならなかったようだ。加えて法律問題のために、個々の大学でなんとかできる問題でもない。同一機関での雇用が困難ならば、だいたい大学が持っているであろう関連法人等で一括して労働契約を結ぶということでいいのか、とも思えるが、こうした行為は一般には「みなし派遣」に該当するので、大学という公益性の高い機関ではあまり現実的とはいえないだろう。

ざっとそろばんを弾いて10万人単位で存在すると思われる、任期付きや非正規ではたらく若手研究者すべてを、既存の大学が無期で雇用することはどう考えても難しいのが現状だ。そのなかでPDやTA、SA,非常勤講師、任期付きはまったくベストの解とはいえない一方で、ぎりぎりセーフティネットの機能を果たしてきたこともまた事実だ。

「有期労働契約の反復更新の下で生じる雇止めに対する不安を解消し、働く方が安心して働き続けることができるようにする」という理念それ自体は大変重要だが、実現困難な前提を要求する制約によって、今回の制度変更がいっそう若手研究者を過酷な環境に追い込み、さらなる競争環境に駆り立てる可能性がある。このままでは疲弊しきってしまう。何はともあれ、早急に大学業界が除外対象になるよう願ってやまないのだけど、みなさんどうお考えでしょう?

(あと、この手の問題解決に際して、どこにアクセスすればいいのか知りたい。やっぱり厚労省と文科省への陳情ということになるんでしょうか・・・)

※2012年12月24日追記

厚労省の資料によると、通算契約期間のカウントは2013年4月1日からなので、現在の契約は計算されないようですね。認識ミスでした。
http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/keiyaku/kaisei/dl/pamphlet03.pdf

以下もあわせて読むと、法律の専門家の議論も参照することができると思います。

第1回 改正労働契約法は大学にどう影響を与えるか 坂本正幸弁護士 - いま聞きたいこと - Researchmap リサーチマップ
http://article.researchmap.jp/qanda/2012/12_01/